理学療法士とマッサージ師 リハビリとマッサージの違い

理学療法士の資格取得を考えている人の中には、徒手による施術を行なう点で共通しているマッサージ師の仕事に興味があるという人も多いでしょう。マッサージの概要や、理学療法士とマッサージ師の違いなどについて説明します。

 

理学療法士はマッサージを行う?

理学療法士の仕事はわかりやすく言えば、患者に対してリハビリテーションを提供することです。患者の治療に必要と判断されれば治療手技のひとつとしてマッサージを行なうこともあります。

理学療法士が行なうマッサージは欧米のリハビリテーション医療に由来しており、「神経・筋及び末梢循環へ作用し、治癒または改善を目的とし、手を用いると最も効果的な、生体組織を科学的・系統手に操作する方法 」と定義されています。

一方でマッサージ師が行なうのは中国から伝わった東洋医学の影響を大きく受けており、あん摩やマッサージ、指圧によって体の調子を整えます。「つぼ」という概念があるのが理学療法士が行なうマッサージとの大きな違いです。

マッサージの効果

正しい方法でマッサージを行なった場合には、以下のような効果が期待できます。

①血流やリンパの流れの改善

マッサージは体の末梢から中枢に向かって行ないます。これは末梢で滞っている血流やリンパを心臓に戻し、代謝を促すためです。血液中やリンパに含まれる不必要な物質が分解され、酸素や必要な栄養素が体内を循環するようになるため、治癒の促進効果や疲労回復が期待できます。

②筋肉のストレッチ効果

マッサージで筋肉を揉んだり圧迫する行為にはストレッチ効果があります。筋肉にはゆっくり伸張すると緊張が緩むという性質があり、ストレッチを行なうことで硬くなった筋肉をほぐすことが出来ます。

③自律神経のバランスを整える効果

マッサージにはリラクゼーション作用があり、自律神経のバランスをととのえる効果があります。忙しい毎日を送っている人の自律神経は、興奮神経である交感神経が優位になっている場合が多いです。マッサージを行なうことで交感神経の興奮おさえることができ、リラックスした状態にすることが出来ます。

自律神経は内臓にも影響を与えていることから、バランスが改善されることで病気の症状が改善されることもあります。

④その他の効果

その他にも、エネルギー産出量を増やして運動機能を高める効果や、ストレスに関係するホルモンを減少させる効果、白血球の増加によって免疫力を高める効果などが報告されています。

マッサージはこう分類できる

マッサージは主に6つの基本手技によって構成されています。マッサージの基本手技を紹介します。

①擦(さす)る

指や手の平で対象部位を滑らせるように擦る手技のことをいい、専門用語では軽摩法と言います。末梢から心臓に向かって擦ることで静脈やリンパの流れの改善、除痛などの効果が期待できます。リラクゼーション効果があることから、マッサージの最初と最後に行なわれます。

②揉む

筋肉や靭帯、腱を手指などを用いて揉む方法です。代表的な手技には強擦法があります。強擦法には「擦」という文字がついていますが、実際には擦る、揉む、こねるといった複合的な要素が入っており、軽擦法が浅部マッサージといわれているのに対して、強擦法は深部マッサージといわれています。

筋肉や靭帯、腱に対して直接的に刺激を加えるため効果は高いですが、筋線維を傷つけたり、炎症を悪化させるなどのリスクがあり、専門的な技術が必要とされます。

③圧迫する

母指や手掌などを用いて筋肉を上から垂直に圧迫する手技であり、圧迫法といいます。圧迫法を使用することによって筋緊張を緩めたり、痛みの原因となっているトリガーポイントをリリースして痛みを軽減させる効果が期待できます。

④叩く

叩打法といい、肩叩きのようにリズミカルに刺激を与える方法です。強擦法や圧迫法を行なった後に残る圧迫感や違和感をリセットするのに効果的といわれています。叩く行為は反射によって筋肉を硬直させるリスクがあります。理学療法士はあまり使用することがない手技です。

⑤振るわせる

振せん法は患者の上肢や下肢の先端を把持し、脱力させた状態で上・下肢を細かく振り動かす方法です。理学療法士は脳卒中の後遺症で上下肢の筋緊張が上がっている患者の治療で使用することがあります。

⑥動かす

関節運動を行ないながら、強擦法などの刺激を与えるマッサージ法です。瘢痕や癒着が原因の関節可動域制限の改善に効果的であり、理学療法士がよく使うテクニックです。

マッサージとリハビリの違い

リハビリは「病気や外傷が原因で心・身の機能と構造の障害と生活上の支障が生じたときに、個人とその人が生活する環境を対象に、多数専門職種が連携して問題の解決を支援する総合的アプローチ 」と定義されています。

つまり、リハビリは患者が社会復帰するために必要なアプローチすべてを指す言葉です。理学療法士は、関節可動域運動や筋力強化トレーニング、日常生活動作練習、歩行練習など様々なアプローチを行います。マッサージ師はマッサージが専業のため、このようなアプローチを行なうことはありません。

理学療法士は肩や腰に痛みがある患者などに対して、マッサージを中心とした施術を提供する場合があります。また、スポーツ分野では、選手の疲労回復や体のメンテナンスのためにマッサージをよく行ないます。

これらのイメージが理学療法士とマッサージ師とが似た職業であるという印象を与えているように思います。理学療法士が行なうのはあくまでもリハビリであり、マッサージはリハビリの中で行なう一つの治療法です。マッサージを専業としているマッサージ師とはその点が大きく違います。

治療対象や目的の違い

理学療法士がマッサージを行なう対象は患者です。そのため、理学療法士は基本的に治療目的以外でマッサージを行なうことはありません。

マッサージ師の場合は治療としてマッサージを行なうこともありますが、多くは疲労回復やリラクゼーションを目的とした健常者への施術となります。

理学療法士は医師の指示がなければ患者にマッサージを行なうことはできませんが、マッサージ師は医師の診断がなくてもマッサージを行なうことが出来ます。この点はマッサージ師の大きなメリットですが、マッサージ師は医師のように診断を行ったり、レントゲンで検査を行ったりすることはできません。適切な診断に基づいた治療が行なえる点や、安全性の高さという点では理学療法士が行なうマッサージの方が優れていると言えるでしょう。

理学療法士の治療はマッサージだけで終ることはまずありません。痛みが再発することがないよう、筋力トレーニングや姿勢の矯正を行なったり、自主練習の指導や日常生活におけるアドバイスなども行ないます。この点が理学療法士とマッサージ師の大きな違いです。

理学療法士やマッサージ師、整体師などとの違い

理学療法士はリハビリ関連の国家資格であり、資格を持っていなければ理学療法を提供することは出来ません。また、マッサージ師の資格の正式名称は「あん摩マッサージ指圧師」という国家資格であり、法的にマッサージを行なうことができると認められているのは「あん摩マッサージ指圧師」と医師のみになります。

では、理学療法士がマッサージを行なうのに法的な問題があるかと言うとそんなことはありません。理学療法士は医師の診断と指示があれば、医師の診療補助行為としてマッサージを行なうことが出来ます。この点は法律上も認められています。

法的に問題となるのは、整体やリラクゼーション、サロンなどにおいてマッサージを行なう場合です。もちろん、国家資格であるマッサージ師の資格を持っている人がマッサージを行なうことには問題はありませんが、無資格の人はもちろんのこと、整体やエステ関連の民間資格を持っていたとしても、医師とマッサージ師以外がマッサージを行なうことは法的に禁止されています。

では、整体やリラクゼーション、サロンなどがどのようにして営業しているかというと、マッサージを提供しているのではなく、マッサージの類似行為を行なうお店として営業を行なっています。町にあるお店を利用すると、施術のメニューには「マッサージ」というメニューはありません。多くのお店は「手もみ」や「ほぐし」など他の表現を使用していることがわかります。これは、私たちが行なっているのはマッサージではなく、あくまでも「癒し」や「リラクゼーション」などのマッサージ類似サービスだということを表しています。

リラクゼーションのお店やサロンにおいてマッサージという言葉が使用されることがありますが、その場合には必ず○○マッサージというように、前に別の言葉がつけられています。アロママッサージやエステマッサージなどがその例です。これらは厚生労働省の見解でマッサージにはあたらないとされており、現在では違法とはされていません。

この記事を読んだ人の中にも、国家資格であるマッサージ師と、「手もみ」や「ほぐし」などのお店を同じように考えていた人は多いと思います。マッサージが行なえるのは国家資格である「あん摩マッサージ指圧師」であり、資格を持っていない人はあくまでも「癒し」や「リラクゼーション」として、マッサージ類似行為を提供しているということを理解しておきましょう。

理学療法士はマッサージ技術を身につければ独立できる?

先ほど説明したように法的にマッサージを行なうことが認められているのは、医師とマッサージ師のみです。理学療法士は医師の指示がなければマッサージは行なうことは出来ません。

そのため、理学療法士としてマッサージの経験があったとしても独立してマッサージを行なうことは出来ません。理学療法士が独立するためには、マッサージ店ではなく、整体院やサロン、リラクゼーションなどマッサージの類似サービスを提供するお店として開業するしかありません。

マッサージにあたる行為を行なえば違法となるため、提供するサービス内容には十分に注意する必要があります。開業して高収入を上げるためには、複数の従業員を雇い、多くのお客を集めることが必要になります。開業する場合は、理学療法士としての能力よりも、経営者としての能力が求められると言えるでしょう。

理学療法士として働いていた際の体験談

私が理学療法士として働いていたときは、マッサージと同じような手技を用いることはありましたが、「マッサージ」を行なっているという感覚はまったくありませんでした。その理由は、行なっている手技は患者の疾患を治療するための治療であり、「理学療法」を行なっているという感覚だったからです。

理学療法士の職場でマッサージという言葉を使う人はほとんどいません。マッサージという言葉からは、疲労回復やリラクゼーションといったイメージが想起されるため、治療として行なっている理学療法士の手技のイメージとは一致しないからです。理学療法とマッサージの違いを多くの人に理解してもらいたいというのが、多くの理学療法士の気持ちではないでしょうか。

開業権がない理学療法士にとって、開業権があるマッサージ師は魅力的に見えます。しかし、開業しているマッサージ師の3割以上は月収が10万円以下という報告もあります。その点を考えると医療機関や介護施設など多くの職場があり、社会的な立場も安定している理学療法士という仕事は素晴らしい職業だと思います。

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