リハビリの仕事にはいくつかの種類があります。どの仕事を選べばよいのか迷っている人のために、リハビリの仕事の種類やそれぞれの仕事内容、特徴などについて説明します。
- 記事の執筆者:久留米リハビリテーション学院 教務部長 大坪健一
- 記事の監修者:医療法人八女発心会 姫野病院 整形外科医 姫野信吉
リハビリに関する仕事
リハビリに関する仕事には次のようなものがあります。
①理学療法士
理学療法士は多くの医療機関や介護施設、スポーツ分野などで活躍しており、リハビリ分野において中心的な役割を果たしている仕事です。
理学療法士は運動療法と物理療法を用いて身体機能が低下した患者に対してリハビリを提供します。運動療法では筋力強化や関節可動域運動、バランス訓練など身体機能を向上させるトレーニングや、立ったり座ったりといった基本的な動作のトレーニング、歩行練習などを行います。
物理療法では専用の機器を用い、温熱や超音波、低周波など物理的なエネルギーを用いて痛みの軽減や血流の改善、筋緊張の緩和といった効果を目的に治療をおこないます。骨折などの整形外科疾患や脳卒中後遺症がある患者などが主な治療対象となります。
理学療法士の資格は厚生労働省が認定をおこなう国家資格であり、リハビリテーション科がある医療機関や回復期リハビリテーション病棟、整形外科などでは欠かせない存在です。平成26年の時点で77万人の人が資格取得者がいる最も人数が多いリハビリテーション専門職となります。
②作業療法士
作業療法士は理学療法士と同じ国家資格であり、身体障害者や精神障害者に対して作業を通じたリハビリテーションを提供し、応用動作能力や社会適応能力を回復させる仕事です。理学療法士が身体機能の改善や基本的な動作の能力向上に重点を置いているのに対し、作業療法士は食事や排泄、入浴などの日常生活動作や巧緻動作などの応用動作に重点を置いています。医療現場では理学療法士とチームを組んで仕事を行うことが多いです。
治療には折り紙や木工、陶芸などの手工芸や、絵画や塗り絵などの芸術、将棋やトランプ、パズルなどのゲームなど様々な作業を取り入れ、作業をおこなう中で患者の日常生活動作能力や応用動作能力、社会適応能力を回復させます。
理学療法士との大きな違いとして作業療法士には精神疾患患者への適応があります。統合失調症などの精神疾患がある患者に対して社会復帰のためのリハビリを提供したり、認知症の症状を抑えるためのリハビリを行います。
平成26年の時点で約42万人が作業療法士資格を取得しており、理学療法士についで人数が多いリハビリテーション専門職となります。
③言語聴覚士
言語聴覚士は話すことや聞くこと、食べることに障害がある人に対しリハビリを提供する国家資格です。国家資格としては比較的新しく日本で認定が開始されたのは1997年からとなります。平成26年の時点では約14万人が資格を取得しています。
対象疾患は病気や外傷によるものから先天性のものまで幅広く、小児から高齢者までが治療対象となります。近年は脳卒中の後遺症による失語症や嚥下障害、寝たきりによる誤嚥性肺炎が大きな問題となっており、医療・介護分野における需要が高まっています。医療・介護分野以外にも福祉分野や障害児教育の分野などにおいて需要があります。
④視能訓練士
視能訓練士は医療系国家資格の一つであり、視能検査と視能矯正のエキスパートです。主に眼科に勤務し、眼科の一般検査や視能矯正、健診業務、リハビリ指導などをおこないます。
リハビリ指導は主に視力機能が十分に回復しない方が対象となり、そのような方に対して必要な補助具の用意や使用方法の指導をおこないます。補助具には拡大鏡や拡大読書器、単眼鏡、遮光眼鏡などがあります。
⑤音楽療法士
音楽療法士は身体や精神に障害がある人に対し、音楽的なリハビリプログラムを提供し障害の回復や生活の質の向上を図る仕事です。音楽には人をリラックスさせる生理的な働きや、コミュニケーション手段を引き出す社会的な働き、ストレスや不安を軽減させる心理的働きがあり、音楽療法士はこれらの効果を使って患者へのリハビリを行ないます。
音楽療法には歌を歌う、楽器を演奏するなど患者自身が音楽活動を行なう能動的音楽療法、音楽を鑑賞することで感情の表出や緊張の緩和をおこなう受動的音楽療法、個人を対象にした個人音楽療法、集団でおこなう集団音楽療法などがあります。
音楽療法は医療保険や介護保険では治療として算定することは出来ないため、音楽療法士を専門としている人は少なく、活躍できる職場も限られます。しかし、言語リハビリに力を入れている医療機関やレクリエーションに力を入れている介護施設では重宝される存在です。
⑥臨床心理士
臨床心理士は心に問題がある患者に対してカウンセリングなどの専門的な治療をおこなって問題解決を図るのが仕事です。臨床心理士はメンタルのリハビリをおこなう仕事と言えるでしょう。治療過程において「こうしなさい」といった命令や否定をすることはせず、相手の話を聞き、理解・共感しながら患者本人が考えを整理し自分自身で問題を解決できるように導きます。
臨床心理士は精神科病院や心療内科において需要があります。近年はメンタルケアの重要性が認識されるようになり、学校や企業でカウンセラーとして働く人が増えています。
⑦柔道整復師
柔道整復師は打撲や捻挫、脱臼、骨折などの症状に対して外科治療や投薬などの医療ではなく、施術による代替治療を行なう国家資格です。具体的には関節や骨を正常な位置に戻す整復や、運動機能を回復する運動療法、温熱などの物理療法を行ないます。
理学療法士と異なる点として施術所(接骨院)を開業できるというメリットがあります。しかし、レントゲンの撮影や診断が行なえないなど提供できる治療に大きな制限があったり、競争が激しく経営を維持するのが難しいといった理由から開業しているのは資格取得者の2割程度にとどまります。
指定の講習会を受講すれば整形外科専門医が勤務する医療機関で運動器リハビリテーションが算定できるほか、デイサービスにおいて機能訓練員としてリハビリを提供することが出来ます。
⑧精神保健福祉士
精神保健福祉士は心に病を抱えた人に対して相談や生活支援、助言、社会参加のサポート、環境調整などを行なう国家資格です。2005年成立の障害者自立支援法の成立によって需要が高まっている資格です。
主に精神科がある医療機関に勤務し、入院から退院までの相談に応じたり、退院後のサポートや利用する在宅サービスの調整、精神障害者の就労支援などを行ないます。医療機関以外では精神保健福祉センターや保健所などに需要があります。
リハビリ専門職になるには?
リハビリ専門職になるためには、まず該当する資格を取得しなければなりません。それぞれの資格の取得方法について説明します。
①理学療法士
理学療法士養成学校を卒業し国家試験に合格することで取得出来ます。養成学校には専門学校(3年制、4年制)と大学(4年制)があります。
②作業療法士
作業療法士養成学校を卒業し国家試験に合格することで取得出来ます。養成学校には専門学校(3年制、4年制)と大学(4年制)があります。
③言語聴覚士
言語聴覚士養成学校を卒業し、国家試験に合格することで取得出来ます。養成学校には専門学校(3年制、4年制)と大学(4年制)があります。
一般の4年制大学を卒業している場合には大学・大学院の専攻科・専修学校に通うことで最短2年で国家試験受験資格を取得でき、国家試験に合格することで資格を取得出来ます。
④視能訓練士
視能訓練士になるには受験資格を満たし、国家試験に合格することが必要になります。受験資格を取得する方法には
- 指定の視能訓練士養成施設で3年以上学ぶ
- 大学や短大、医療系保育系専門学校を卒業し指定の視能訓練士養成施設で1年以上学ぶ
など複数の方法があります。
⑤音楽療法士
音楽療法士には公的な資格はなく、いくつかの民間資格が存在します。代表的なものは「日本音楽療法学会」が認定する民間資格です。
取得方法は2つあります。一つ目は日本音楽療法学会が認定する学校で音楽療法について体系的に学ぶ方法、二つ目は学会が主催する資格試験受験のための制度に参加する方法です。二つ目の方法は、学歴や臨床経験、講習会の受講などいくつもの条件をクリアする必要があり難度が高いです。
⑥臨床心理士
臨床心理士は民間資格であり、「公益財団法人 日本臨床心理士資格認定協会」が認定を行なう資格認定試験に合格する必要があります。試験は誰でも受験できるわけではなく、指定大学院を修了した者や、臨床心理士に関する専門職大学院を卒業していることなどの条件があります。資格取得のためには、指定大学院や専門職大学院の合格を目指すのがスタートとなります。
⑦柔道整復士
柔道整復師養成課程がある専門学校(3年制、4年制)や大学(4年制)で受験資格を取得し、年1回行なわれる国家試験に合格することで取得できます。
⑧精神保健福祉士
所定の学校で学んだり、実務経験を得ることで国家試験受験資格を取得することができ、国家試験に合格することで精神保健福祉士になることが出来ます。受験資格を獲得するルートには複数あり、
- 福祉系の4年制大学を卒業する
- 福祉系の短大を卒業し実務経験を1年から2年経験する
などの方法があります。
リハビリ専門職が活躍する場所は?
リハビリ専門職は以下のような場所で活躍しています
①医療機関
理学療法士や作業療法士、言語聴覚士などもっとも多くのリハビリ専門職が働いているのが医療機関です。総合病院やクリニックなどのリハビリテーション科や、回復期にある患者に集中的なリハビリを提供する回復期リハビリテーション病棟、リハビリ対象疾患が多い整形外科や脳神経外科などで多くのリハビリ専門職が活躍しています。
精神科では作業療法士や臨床心理士、精神保健福祉士が活躍している他、眼科においては視能訓練士、耳鼻咽喉科や口腔外科においては言語聴覚士が活躍しています。
②介護施設
介護施設では介護保険施設である介護療養型医療施設や老人保健施設において多くのリハビリ職が働いています。老人保健施設は生活リハビリを重視した施設となっており、理学療法士や作業療法士といったリハビリ専門職が中心的な役割を果たしています。また、デイケア(通所リハビリテーション)には法律で理学療法士、作業療法士、言語聴覚士いずれかの国家資格の配置が義務付けられている他、デイサービス(通所介護)では機能訓練員として多くのリハビリ専門職が働いています。利用者の自宅でリハビリを提供する訪問リハビリにおける需要も高まっています。
③福祉施設
福祉施設には身体障害者福祉センターや精神保健福祉センター、児童発達支援センター、更生相談所などがあります。身体的な治療が必要な施設では理学療法士や作業療法士が多く活躍しており、精神的な治療が必要な施設では作業療法士や臨床心理士、精神保健福祉士などが活躍しています。
④その他
その他には保健所や高齢サービス課などの行政サービスや、学校、一般企業などで活躍しています。行政サービスでは理学療法士や作業療法士、精神保健福祉士などの国家資格保持者に需要があります。近年は学校や一般企業におけるメンタルケアが重要視されており、臨床心理士をカウンセラーとして配置するところが増えています。
スポーツ分野におけるリハビリ専門職の活躍も増えてきており、運動を得意とする理学療法士や柔道整復師の中にはプロスポーツ選手や障害者スポーツのトレーナー、スポーツジムなどで働いている人がいます。
リハビリ専門職としての仕事のやりがいは?
①人の役に立っていることを実感できる
リハビリ専門職としての一番のやりがいは人の役に立っていることを実感できることです。一般企業においてはお金を稼ぐことが一番の目的となりますが、リハビリ専門職の場合はお金よりも患者の回復を一番に考えて仕事ができ、患者が元気になり社会復帰できた際には大きな喜びを感じることができます。患者や家族から感謝されることが多い仕事であり、高いモチベーションで仕事がおこなえます。
②努力が結果として現れる仕事
リハビリ職の仕事は身につけた知識や技術が結果としてあらわれる仕事です。職場で経験を積み、知識や技術が向上していくにつれて患者への治療効果は上がっていきます。最初は治療結果を出すことに悪戦苦闘することも多いですが、経験を積むにつれて結果を出せるようになり、仕事に充実感を感じられるようになります。結果を残すことで患者や家族、スタッフなど周囲の信頼を得ることができ、仕事のやりがいは増していきます。
③超高齢化社会に欠かせない存在
日本は超高齢化社会に突入しており、厳しい財政面から国民全員に十分な医療や介護を提供することは難しくなりました。今後は入院期間の短縮や在宅介護の充実などによって費用を削減していく必要があります。入院期間短縮の為には早期リハビリによる患者の早期回復早期離床が必要です。また、在宅介護を充実させるためには在宅で生活する高齢者の介護予防が必要であり、理学療法士や作業療法士によるリハビリが欠かせません。リハビリ専門職は今後の医療・介護分野において欠かすことが出来ない存在であり、社会に貢献できるという点で大きなやりがいがあります。
④不景気に強く就職や転職がしやすい
リハビリ専門職として働くためには国家資格や難しい民間資格の取得が必要です。そのため、資格は就職や転職において大きな武器となり、不景気の影響を受けることなく安定して働くことが出来ます。
一般企業とは違いリハビリ専門職の職場は全国にたくさんあるため、就職先が自分に合わない場合には、他の就職先を見つけやすいというメリットがあります。理学療法士や作業療法士といったリハビリ専門職は一生やりがいを持って働ける仕事と言えるでしょう。