作業療法士は大変な仕事なのでしょうか。そもそも、作業療法士になること自体が大変とも聞きますが、実際はどうなのでしょうか。
作業療法士が大変といわれる仕事内容や作業療法士の養成校で大変なところについて、詳しくみていきましょう。
- 記事の執筆者:久留米リハビリテーション学院 作業療法学科 学科長 岡 大樹
- 記事の監修者:久留米リハビリテーション学院 教務部長 大坪健一
作業療法士はどんなところが大変?
作業療法士の大変なところとはどのようなところでしょうか。項目ごとにみていきましょう。
肉体労働
作業療法士は、「手作業をする」、「ずっと座って色々作っている」という物静かなイメージがるかもしれませんが、理学療法士ほどではありませんが、体力がある程度ないとできない仕事でもあります。分野によって多少の違いはありますが、患者様の生活を支援するわけですから、患者様の生活に必要な介助はもちろん、リハビリ中も患者様が作業や活動を行いやすいように、作業療法士自身も作業や活動に加わり、自分の身体を駆使して支援しているのです。
ものづくりや活動の準備だって、木工や園芸など、全身を使って汗水流して行うこともたくさんあります。訪問では、雨の日も台風の日も、患者様のお宅までお伺いします。作業療法士は、身体が資本の仕事です。
日々勉強が必要
医療の世界は日進月歩。日々、リハビリの考え方や制度など、新しいことを勉強しなければ、時代に取り残されていきます。現代は、テレビやネットなどから、一般の方でも簡単に情報を得られる時代ですので、患者様の方がいろいろな情報を持っていらっしゃることもあります。しかし、医療専門職として、正しい情報を見極めて、患者様に指導、助言していくことも大切です。
また、作業療法にマニュアルは存在しません。人間相手の仕事ですから、患者様のその時の状態や作業療法士の働きかけによって、大きく反応は変わってきます。同じことの繰り返しでは前に進むことはできません。自分が行なったことを振り返り、次に活かす日々の努力も必要です。
患者様とのコミュニケーション
患者様といかにコミュニケーションをとって、必要な情報を引き出せるかということは、作業療法を行ううえでとても重要です。人間同士ですし、疾患や精神状態なども影響し、なかなか円滑なコミュニケーションが難しい時もあります。コミュニケーションも作業療法のひとつの技術で、どのような言葉がけを行えば良いのか、どのような対応、タイミングが良いのかは、患者様ごとに見極めなければなりません。経験を積み、先輩のテクニックを学んで、自分にしかできないコミュニケーション術を磨いていきましょう。
改善まで時間がかかる
急性期、回復期であれば、患者様の日々の変化は大きくみられますが、維持期といわれる時期に入ると、作業療法を展開していてもなかなか変化がみられないと感じることも多いと思います。しかし、しっかりと評価を行い、患者様が達成出来そうな目標を立てて、ちょっとした変化でも捉えられるようになると、患者様の日々の変化に目を向けることができ、喜びを見いだせるようになります。患者様に、今、何が必要で、何ができるのかをしっかり捉えられる作業療法士になる努力を惜しまないことが大切です。
知名度が低い
作業療法士の人が、「仕事、何してるの?」と聞かれて、何と答えようか困ったことがある方は多いと思います。「作業療法士」と答えて、「ああ、作業療法士ね!」という反応が返ってくることは、相手が医療関係者でない限り、恐らく稀でしょう。
私も、「えーと、作業療法士って言って、リハビリをする仕事なんだけど。」、「ああ、介護ね。」、「いや、介護とは違って、、、。」というやりとりを何度経験してきたことでしょうか。過去に、人気俳優がテレビのドラマで演じていたこともありますが、まだまだ、一般的には知名度は低く、わかってもらいたくても、なかなかわかってもらいにくい仕事です。
理学療法士は、スポーツトレーナーとして活躍している分、知名度も高く、カッコいいと言われます。その辺り、悔しい思いも経験しますが、誇りを持って作業療法士として仕事をしてほしいと思います。
作業療法士になるのは大変?
作業療法士になることは大変なのでしょうか。費用、勉強、実習、国家試験別にみていきましょう。
お金がかかる
作業療法士になるためにはどれくらいの費用がかかるのでしょうか。作業療法士になるには、作業療法士の養成校に通うこととなりますが、国公立大学、私立大学、専門学校(3年制、4年制、夜間)によって異なるようです。
卒業次までに、4年制の私立大学では500~600万円前後、専門学校では400~450万円前後のところが多いように見受けられました。これに、教科書代や白衣代、通学費や生活費がプラスでかかることとなります。
確かに、作業療法士になるまでには、それなりの費用がかかりますが、夏休みなどの長期休みにアルバイトをして、学校に通っている学生も多くいます。学費の分割納入制度や、奨学金制度を設けている学校や、行政の母子家庭及び、父子家庭への自立支援給付金制度もありますので、制度を活用すれば入学できる学校の幅も広がるはずです。自分には、どのような選択肢があるのかを調べてみるのも良いでしょう。
勉強量が多い
昔は専門学校や医療技術短期大学部などの3年制が主流でしたが、現在では医療技術短期大学部は国公立大学の4年制となり、専門学校も4年制が増えてきています。やはり、その背景には学習することが多いため、余裕を持った学習体制が望まれるということがあるのでしょう。
作業療法士に必要な知識は、社会科学、人文科学などの基礎分野から、解剖学、生理学、人間発達学、リハビリテーション医学、作業療法学などの専門分野まで多岐にわたります。人間をみる作業療法士にとっては、学校で学ぶことは全て必要な知識、技術です。基礎がしっかりしていないと、患者様を深くみることはできません。勉強量は多いですが、学校で学べる間に、臨床に出るための知識、技術をしっかりと身につけましょう。
実習が厳しい
実習は、約2週間の評価実習と、約8週間の臨床実習があります。社会に出たことのない学生にとっては、実際に臨床の現場に白衣(ケーシー)を着て立つわけですから、社会の厳しさも、学校で勉強したことを実践する難しさも、患者様とのコミュニケーションでの悩みも、課題をこなすことも、全てがいっぺんにのしかかってきます。
昼間は、緊張と不安でいっぱいになりながら患者様を担当し、夜は昼間行ったことをレポートにまとめる毎日です。初めてのことばかりの環境で、厳しいと感じるのは当たり前です。実習で、自分の課題を見つけ、どのように乗り越えていくかが、実習の一番の課題でもあります。厳しいと感じることは、自分がこれから改善できる点でもあります。厳しい実習をどうぞ乗り越えて、成長してください。
試験の難易度
作業療法士は国家資格であるため、国家試験に合格しなければなりません。平成29年実施の作業療法士国家試験の合格率は83.7%、うち新卒者は90.5%でした。(厚生労働省 第52回理学療法士国家試験及び第52回作業療法士国家試験の合格発表について)
カリキュラムの一環として、国家試験対策が行われている学校もあります。総得点167点以上/277点、かつ、 実地問題41点以上/117点を満たしたものが合格とありますから、全体の6割以上かつ、実地問題を4割以上採れれば合格できることになります。学校で勉強したことをしっかりと頭に入れ、国家試験対策を行い、試験に臨むことが大切といえるでしょう。
作業療法士の将来性は?
作業療法士は将来性がある仕事なのでしょうか。気になる給料や、年をとっても続けられるのかという点についてみていきましょう。
給料は上がるのか?
何年働いても、初任給のままということはないでしょう。経験年数による加算や管理職手当などが付くと、給料も上がるはずです。職場によって、給料の高低はありますが、求人広告の給料をみてみると、十分に生活していくことはできる額だと思われます。後は、職場で自分のやりたいことができるのか、自分の生活とのバランスがとれるのか、などの面と照らし合わせた時に、給料面が納得できるかというところだと思います。
肉体労働は続くのか?
最初に、「作業療法士は肉体労働がメインです。」と言いましたが、自分の体調や体格、体力に合わせて、自分の身体の使い方を工夫することも作業療法士の技術のひとつです。年をとれば誰だって、若いころと同じような身体の使い方はできません。その時の身体の状態でできることを考える必要があります。自分一人で介助が難しいと判断した場合は、同僚やご家族様に助けを求めることもひとつの方法です。無理をして患者様や自分が怪我を負うようなことは避けなければなりません。
大きな病院では、経験年数を積むごとに、後輩の指導に回ることが多くなるケースもあります。作業療法士は色々な働き方ができる仕事でもあるので、その時の状況によって働き方を見直すこともできるでしょう。
大変な仕事だがやりがいもある
作業療法士は人間をみる仕事ですので、思い通りにすんなり行くことは少なく、大変といえば大変かもしれません。でも、そこが作業療法士の仕事の魅力でもあると思います。試行錯誤しながら色々試す過程もまた、患者様の目標を達成するための大切な糧となります。たくさん壁にぶつかった方が得られるものも大きく、次の課題のヒントにもなります。
患者様と一緒に目標を達成できたときは、そこまで行きつく過程が大変だった分、やりがいもとても大きなものとなります。
作業療法士は、その人らしく生きるための支援ができる仕事です。患者様の活き活きとした表情や、自然とこぼれた笑顔をみれたとき、「ああ、よかったな」と思えるはずです。是非、その人らしく輝ける生活を支援する作業療法士を目指してください。
- 作業療法士や理学療法士についてより詳しく知りたい方は、「理学療法士の仕事で大変なところは?」・「理学療法士と作業療法士の違いは?」のページも参考にご覧ください