リハビリエピソード

大腿骨の骨折の痛みから寝たきりになった100歳女性

回復期病棟で勤務していた時、100歳の女性Sさんを担当させていただくことになりました。

Sさんは大腿骨骨折の手術後、痛みのために離床することが億劫になり、日中はほとんど寝たきりの状態になってしまっていました。また、強度の難聴もあったため、スタッフとのコミュニケーションも消極的になってしまっていたようです。

リハビリ開始当初のSさんは「もう歳だから歩けなくてもいい」と、車いすに乗っていただくのがやっとの状態だったのです。

病前の生活を知ることから、介入の手口を探る

骨折などの整形外科的な疾患の場合、リハビリのゴール設定は受傷前の状態を目安にすることがほとんどです。そのため、病前の生活状況の聞き取りは非常に重要です。私はSさんの娘さんに入院前の状況を詳しく教えて頂きました。

Sさんは入所されていた施設では、杖を使用すれば、ほとんどの日常生活の動作はお一人で可能であったとのことでした。昔は編み物の先生をされていたこともあり、編み物の腕前はかなりのものであったということも分かりました。

それを聞いて、編み物が介入の糸口になるのでは…?と思い、Sさんに編み物の活動を提案してみることにしました。

久しぶりの編み物との再会。Sさんの意識が変わり始める

翌日のリハビリの時間、娘さんから聞いたことを話してみると、Sさんは大きく頷きました。

「あのころはたくさん教えていたのよ。でも、もうずいぶんやってないからね」

私はSさんに編み物を教えてもらえないかと、尋ねてみました。

「できるかしら。どこでやるの?」

Sさんは早速、自分でベッドから体を起こそうとしました。

「あいたたた…!」

私はSさんの動きを介助しながら言いました。

「Sさん、起き上がる時はこんな風に動くと楽ですよ。お手伝いしますね」

痛みが出ないように動きをサポートしつつ車椅子に乗っていただき、食堂へ移動。

Sさんに毛糸を手渡すと、ご自分でさっさと編み始めてしまい、あっという間に数段が編みあがりました。

「しばらくやってなかったけど、手が覚えてるねぇ」

Sさんは嬉しそうに編み続けます。

「ここに来たら、また編み物ができるの?」

Sさんはよほど久しぶりの編み物が楽しかったのか、そう聞いてくれました。

編み物への情熱が、Sさんの活動量をアップさせる

私はその日のうちに、Sさんの起き上がりや車椅子への乗り移りなどの動作の介助方法を病棟スタッフにデモンストレーションしました。さらにベッドサイドにも介助のポイントを記したポスターを貼らせてもらい、誰もが安全にSさんの介助が行なえるように配慮しました。リハビリの時間以外にも、Sさんに編み物をとおして、離床時間を増やしてほしかったからです。

それからSさんは、編み物をしたくなるとナースコールでスタッフに食堂まで連れて行ってもらい、その場で編み物を楽しむようになりました。もっと編み物をやりたい、というSさんの情熱に比例するようにリハビリへの意欲も向上し、少しずつその成果が見えるようになってきました。あれだけ激痛が強く、ベッドから起き上がることさえままならなかったSさんが、自分でベッドから起き上がって車椅子に乗れるようになったのです。

それからほどなくして、Sさんは歩行器を使って食堂まで自分で歩いて行けるほどに回復、トイレや着替えなどの動作もお一人で可能となりました。

他の入院患者様にも大きな影響を与えたSさんの姿

Sさんのそんな変化は他の入院患者様にも大きな影響を与えました。

「100歳のおばあちゃんが、編み物をしているんだって」
「100歳なのに、すごいねぇ。私たちも頑張らなくちゃねぇ」

Sさんを中心として患者さん同士の交流が生まれはじめ、Sさんの表情もどんどん生き生きとしてきました。なかにはSさんに影響されて編み物を始める方も現れ、病棟ではかつてない編み物ブームまで湧き起ってしまったのです。

Sさんの娘さんは、どんどん変わっていくSさんの様子に驚きつつも、「昔のお母さんに戻ったみたい」と大喜びしてくれました。その後Sさんは元の施設へ退院されましたが、編み物という楽しみを取り戻し、自分のペースでご自身の生活を楽しまれているようです。

Sさんにとっての編み物のようなキーとなる活動を探り、日常生活の中に取り入れていくことがリハビリを進めるうえで重要性であることを実感させていただきました。

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この記事を書いた現役の作業療法士は・・・

作業療法士 10年目(40歳・女)

研究助手として大学で5年間勤務した後、リハビリテーション専門学院に入学。卒業後は総合病院に就職し、急性期、回復期、訪問リハビリ等をひと通り経験。夫婦そろって作業療法士というリハビリ一家。現在は子育てに奮闘中。

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