「転職」とは、仕事を辞めて新しい仕事に就くことです。日本には「終身雇用」という仕組みがあった影響でしょうか。転職にはどちらかというと後ろ向きのイメージがあるかもしれません。
でも、理学療法士の世界では、転職は決して珍しいことでも後ろ向きなことでもありません。どんな転職のスタイルがあるのかをご紹介します。
- 記事の執筆者:久留米リハビリテーション学院 教務部長 大坪健一
- 記事の監修者:医療法人八女発心会 姫野病院 整形外科医 姫野信吉
理学療法士の転職事情
理学療法士の仕事は、全国共通でどこでも仕事ができます。これは医師や看護師などの医療職や、介護職などと同じ大きな強みと言えるでしょう。
理学療法士の転職
理学療法士の転職は、IターンやUターンだけでなく、結婚による転勤や子育て後の仕事復帰などでも仕事を見つけやすく、女性でも働きやすい仕事と言えます。
それだけでなく、もっと勉強したい、という理由での転職も珍しくありません。
病院にはそれぞれの得意分野があります。例えば整形外科の病院である程度経験を積んだから、次は脳血管疾患のリハビリを学びたいというのも立派な転職理由です。
働く上での条件(勤務地・勤務時間・休日など)が決まっている場合には、派遣会社のサービスを使って転職先を探してもらうこともできます。
理学療法士は転職しやすい?
もちろん、全ての人が転職するというわけではありませんが、入職から3年ほど経つと新しい世界を求める人も少なくありません。特に20代の人など、経験をたくさん積みたいと思えば積極的に動きます。
ある程度規模の大きい病院であれば、中途の採用については通年である場合が多く、転職はしやすい職業と言えます。
理学療法士としてのキャリアアップのポイント
理学療法士は養成校である大学や専門学校、短大などを卒業して、国家試験に合格することで資格を得られます。もちろん、資格を取っただけではまだまだ一人前とは言えません。
現場経験が一番重要
新卒の理学療法士の就職先として主流である勤務先は、やはり病院です。その中でも、脳梗塞などの脳血管疾患のリハビリを行う急性期・回復期の病院や、外来や手術後のリハビリを担当する整形外科の病院では、その後の仕事に行かせる知識と経験が身につけられるでしょう。
病院以外でも、どんな職場であれ日々の臨床経験が大きな財産となります。リハビリテーションの知識だけでなく、ご本人や家族とのコミュニケーションスキルや、チームの一員として仕事をするために必要な協調性や責任感なども、毎日の仕事の中で培われていくものです。
実務経験を積みながらも勉強を欠かさない
医療の専門職には共通して言えることですが、仕事をしながらも勉強がずっと続きます。理学療法士の場合は、「理学療法士協会」に所属することで「生涯学習プログラム」を受講することができます。研修に参加したり、論文を発表するなどして必要な単位数を集めていくことで、「専門理学療法士」「認定理学療法士」の認定を受けることもできます。
それ以外でも、大型書店の医療コーナーにはリハビリテーションの書籍も多くあります。それらを自分で購入して仕事に活かすために勉強している人もたくさんいます。
理学療法士が転職先を選ぶ際の注意点
転職先を選ぶ際の注意点をいくつか挙げておきます。しかし、何を求めているかによって優先順位は変わってくると思います。長く働き続けたいと思えば、職場の雰囲気や給与、福利厚生が重要です。どうしてもその病院で学びたいことがある場合などは、キャリアアップを第一に考えて、それ以外の点は大目に見るというスタンスが必要かもしれません。
施設の雰囲気
どんな仕事であっても雰囲気が良いことに越したことはありません。しかし合うかどうかは人の感じ方しだいです。この点は職場見学の際にしっかりとチェックしたいところです。
給与
リハビリテーションの単価は全国一律で決められているため、給与だけを求めるとなると、訪問リハビリで件数を稼ぐのが一番かと思いますが、地域性によっても条件は異なります。給与は仕事で求められることの大きさに比例しますから、単純に高いだけで選ぶことは避けたいものです。また、昇給や昇進についても確認しておくことが重要です。
仕事内容
病院であれば、業務内容はリハビリの内容ということになります。どんな患者さんが多いかによって経験できる疾患がわかります。
介護保険の施設では、業務がリハビリに限らない場合がありますので、確認が必要です。例えば通所系のサービスでは利用者さんの「送迎」をしなければならないこともあります。
キャリアアップにつながるか?
特にその病院でなければならない研修制度が整っているかどうか、研究に取り組めるかどうかが重要となります。
大きな医療機関であれば、理学療法士部門のトップの方がどんな方かも重要なポイントです。どこかの養成校の先生を兼務している場合などは、その病院自体が研究にも熱心であると考えられます。
理学療法士の転職ケース(事例)
理学療法士の転職には、いろいろなケースがあります。一般的な会社勤めの人にはあまりないような転職のケースもあります。いくつかご紹介しましょう。
回復期を経て維持期へ~病院から介護保険施設へ転職~
現在の医療制度においては、病院ごとの分業制が進んでいます。病気の発症直後に入院するのは「急性期病院」、その後本格的にリハビリを行うのが「回復期病院」です。この二つでの勤務では大きな経験が得られます。
その一方で、「リハビリは期間限定」でもあります。回復期病院ではその日までにいかにリハビリが進められるかが勝負です。充実した時間ではありますが、ふと時間に追われていると感じることもあります。
回復期病院を退院した後は、充実したリハビリを受ける手段はほとんどありません。しかし、患者さんには退院後も長い人生が待っています。
そんな患者さんにじっくり向き合いたいと考える人もいて、そんな人は病院から老健や特養、デイサービスなどの介護保険の施設に転職します。
訪問で稼ぐ!~病院勤務から訪問看護ステーションへ転職~
病院で一通りの知識と経験を積んでから、在宅サービスへ転職したケースです。「訪問看護」とは、その名の通り看護師が患者さんの自宅に訪問するものですが、理学療法士がリハビリを提供することもできます。
病状が重い患者さんでも、住み慣れた自宅で過ごしたいというニーズは高く、国もそれを後押ししています。そのため訪問で行うリハビリテーションは比較的単価が高い状況です。
訪問リハビリは、自分ひとりでリハビリを行わなければならないため責任は重いですが、給料を歩合制として、「稼ぎは腕(訪問件数)しだい」というところもあります。都市部で人口が密集している地域では移動の効率も良いため、「月収50万以上」という求人も見られます。
○○理論の習得を目指し、本場に就職
理学療法士の世界には、さまざまな流儀や考え方があります。海外から持ち込まれたものが多いです。それだけ人間の体には、まだまだ私たちの理解が及ばない部分があるということですね。
教科書で習うだけではそれらの技術が十分には学べません。講習会に参加してスキルを身につけて行く方法もありますが、「○○理論を極めたい」といって、その理論の実践に力を入れている病院に転職することも珍しくありません。
まとめ~転職はチャンス!
理学療法士の働くところといえば、一昔前までは、病院に就職することが普通でした。しかし、今は決してそれが当たり前ではなくなってきています。 病院だけでなく、介護老人保健施設(老健)には必ず理学療法士などのリハビリ専門職が配置されています。
特別養護老人ホームやデイサービスなどの介護施設では、現時点では理学療法士などのリハビリ専門職の配置は義務付けられていませんが、その専門性を買われて徐々に配置するところが増えており、求人も多く目にするようになってきています。
さらに、保険外の「自費で受けるリハビリ」を提供する企業も現れています。以前は保険外で理学療法士が業務を行うことは認められていませんでしたが、医療行為ではない「フィットネス」の分野であれば理学療法士としての業務が認められるようになってきています。今後の理学療法士の働き方は大きく変わっていくかもしれません。「理学療法士になったら、○○がしたい」と考えている方も、「そこまではまだ・・・」という方も大丈夫です。
新人の理学療法士さんにとっては、どんな職場であってもまずはしっかりと経験を積むことが重要です。理学療法士として働くうちに、必ず自分のやりたいこと、こんな理学療法士になりたいというイメージが見つかるはずです。見つかってから、どうやってそれを実現するかをじっくり考えましょう。
そのために「転職」が必要になるかもしれませんが、先輩たちも通ってきた道です。自分自身の準備が整ったら、思い切って一歩を踏み出してください。転職も大きなチャンスになりますよ!