理学療法士の養成学校では一般科目として英語の授業が行なわれます。そのため、英語が苦手な人の中には不安を感じているという人がいるでしょう。一方で英語が得意な人は、その能力を理学療法士の仕事に活かしたいと考えていると思います。
理学療法士に英語は必要なのか、養成学校での英語の授業はどのようなものなのかなどについて、理学療法士である私の経験を交えながらご紹介したいと思います。
- 記事の執筆者:久留米リハビリテーション学院 教務部長 大坪健一
- 記事の監修者:医療法人八女発心会 姫野病院 整形外科医 姫野信吉
理学療法士に英語は必要?
理学療法士に英語は絶対に必要かと言われれば、そのようなことはありません。理学療法士が担当する患者や施設利用者のほとんどは日本人であり、一緒に働く職員も日本人だからです。職場でのコミュニケーションで英語が必要とされることはほとんどないと考えて良いでしょう。
しかし、中学校や高校で習う基礎程度の英語能力は必要です。医師の多くはカルテの記入を英語で行なうため、英語能力がまったくなくてはカルテの内容を理解することは出来ません。単語は辞書で調べることで対応できますが、文法などの基礎はわかっていないと職場によっては仕事に支障が出る場合があります。
理学療法士の国家資格を取得することに関しては、英語能力は必要ありません。養成学校で英語の単位を取得することは必要ですが、国家試験で英語の能力が問われることはありません。
養成学校で習う英語の授業
養成学校での英語の授業の内容は学校によって異なりますが、多くは中学校や高校で習った延長上の授業となっています。難しい内容ではないのですが、中学生レベルの内容を一から丁寧に教えてくれるということはありません。極度に英語が苦手と言う人は、入学前に基本を復習しておくことが必要かも知れません。
理学療法士養成学校ならではの授業として、医学英語の授業があります。医学では専門用語を使用するため、一般的な英語教育とは別に医学用語についても勉強しなければなりません。私が卒業した学校では、医学英語の授業は単語の習得が主な内容でした。テキストはそれほど難しくなく、体の部位の名称や筋肉の名称、骨の名称などの英単語を勉強しました。筋肉や骨に関する英語は臨床でよく使用されるため、学生時代に覚えておくと臨床に出てから役に立ちます。
養成学校で英語が出来ないからといって卒業や進級に影響することはほとんどありません。授業にまじめに取り組み、出される課題や提出物をきちんとクリアすれば単位は取得可能です。英語が苦手な人でも過度に不安になる必要はありません。
英語はキャリアの幅を広げる手段となる
リーディングやライティング能力は論文の読解や作成に役立つ
理学療法士の仕事において英語能力は必ず必要なものではありませんが、英語能力は理学療法士としてのキャリアを広げるために役に立ちます。
医療に関する技術は年々進歩するため、理学療法士は新しい情報を入手して知識や技術をアップデートしていかなければなりません。その際に重要となるのが文献です。日本語の文献を読めば良いのではないかと思う人がいるかもしれませんが、理学療法の研究や技術が進んでいるのは、アメリカやドイツ、イギリス、オーストラリアなどの海外です。論文の国際標準は英語のため、最新の文献を読むためには英語のリーディング能力が必要です。重要な知識は日本語として後に情報が広がりますが、数年のタイムラグは必ずあります。高いレベルで活躍したいと考えている人にとっては英語は重要なスキルと言えるでしょう。
また、将来的に海外に向けて研究成果を発表したい場合には、英語での論文作成や英語でのプレゼンテーション能力が必要となります。
今後医療現場で需要が増える英語のコミュニケーション能力
日本への外国人観光客は年々増加しており、医療機関に外国人がやってくる機会は増えてきています。また少子高齢化が進んでいることから、今後は外国人労働者が増加することが予想されます。外国人の中には英語は話せても日本語は話せないと言う人が多いです。英語能力があれば、困っている外国人患者の力になることが出来るでしょう。
海外で勉強したり働くためには英語は必須
理学療法士の本場であるアメリカやイギリス、オーストラリアなどで勉強したい、働きたいと考えている場合は英語は必須です。患者や職員とのコミュニケーションはすべて英語であり、医療の現場では言葉によるミスが許されないからです。コミュニケーションとしての英語はもちろんのこと、医療英語にも精通することが必要です。
英語の習得方法
リーディングやライティング能力を上げる方法はたくさんの英語文献を読むこと
リーディングやライティング能力を上げるもっとも良い方法は、英語文献をたくさん読むことです。最初はわからない単語が多く読むのは大変ですが、繰り返すうちにわかる単語が増え英語能力は上がっていきます。最近では医学用語が収録された電子辞書が発売されているため、上手に活用することで効率良く文献を読むことが出来ます。
コミュニケーション能力は経験が重要
スピーキングやリスニングといったコミュニケーション能力は実際に英語を聞いたり、話したりしなければ上達しません。日本の教育制度ではペーパーテストが主体のため、これらの能力が苦手な日本人は多いです。もっとも効率的な方法は、英語を話す外国人の友人をつくることです。コミュニケーションをとっていく中で英語能力を見につけることができます。
最近では英語をただ聞き流すリスニングタイプの勉強法が人気となっています。この方法は通学中に行なうことができるため、理学療法士を目指す学生は利用しやすいのではないでしょうか。
海外で働く理学療法士
海外で理学療法士として働くためには現地の法律を理解し、資格条件や勤務条件を満たすことが必要です。理学療法士先進国の一つであるイギリスでは、理学療法士の免許を持って入れば英語能力試験(IELTSまたはTOEFL )などの必要要件を満たすことで、現地で働くための申請を行なうことができます。
オーストラリアやカナダでは筆記試験や実技試験が行なわれます。当然ながら試験はすべて英語です。海外での活躍を考えている人は英語は必須の能力ということが出来るでしょう。
最後に:理学療法士としての体験談
最後に私の理学療法士としての経験を話したいと思います。理学療法士としてリハビリテーションに力を入れている病院や老人保健施設に勤務しましたが、英語はほとんど必要ありませんでした。外国人の患者を担当したこともありません。観光の外国人が怪我や体調不良で病院を利用することはあると思いますが、リハビリテーションまで処方されることはまずありません。このような状況を考えると、英語が苦手な人でも積極的に理学療法士を目指して大丈夫だと思います。
中には理学療法士として高いレベルで仕事がしたいと考える人もいるでしょう。そのような人にとっては英語の能力は他のライバルと差をつけるための強い武器になります。英語が得意な人はその能力を活かしてキャリアアップを目指して欲しいと思います。