日本における高齢化と少子化は深刻な状況であり、医療・福祉分野における人材不足や医療費・介護費の高騰は大きな社会問題になっています。外国人労働者の受け入れや消費税の増税など様々な改善策が検討されている中、解決策として注目を集めているのがロボットの導入です。

21世紀はロボットの時代といわれ世界中で様々なロボットの開発競争が行なわれています。特に医療・福祉分野のロボット開発は新規産業として力を入れている企業が多く、リハビリに関連するロボットも多く開発されています。日本企業が開発を行なったHAL(ハル)は世界的にも注目を集め、一部の商品はすでに医療機関に導入されてリハビリでも活用されています。

リハビリのロボットにはどのようなものがあるのか、ロボットにはどのようなことが出来るのか、ロボットが導入されたことでリハビリの仕事はどのように変わっていくのかなどについて説明します。

どんなロボットがあるの?

リハビリ分野での活躍が期待されるロボットには大きく分けて3種類があります。

①介護支援型ロボット

介護支援型ロボットは理学療法士や作業療法士などの療法士の肉体的な負担を軽減してくれるロボットです。リハビリ業務は自力で立ったり歩いたり出来ない人を抱えなければならず、身体的な負担から腰痛を発症することも多いです。ロボットによって身体的な負担を軽減することが出来れば療法士の労働環境は改善され体を壊すことなく健康的に仕事が行えます。

介護支援型ロボットの代表にはサイバーダイン社が発売しているHAL介護支援用があります。腰に巻きつけて使用する装着型のロボットで、皮膚に取り付けたセンサーが生体信号を読み取り、移乗介助などの動作時にパワーをアシストしてくれます。

HAL以外にも、人工筋肉によって腰にかかる負担を軽減するロボットやベッドが分離して車椅子になることで移乗動作が必要なくなるロボティックベッド、排泄動作を自動化した全自動排泄処理ロボットなどの開発が行なわれています。

②自立支援型ロボット

自立支援型ロボットは要介護者の自立を支援するロボットです。移動や食事、排泄といった日常生活動作が自立できるように支援するとともに、リハビリにおける機能回復訓練や、日常生活動作練習、歩行練習などに活用することが出来ます。

歩行や排泄に関するロボットが多いのが特徴で、本田技研工業によるHonda歩行アシスト、TOTOによる移動できる水洗トイレの開発などが注目を集めています。他にも手が不自由な人の食事を支援するロボットや、設定した時間に薬が排出される服薬管理ロボットなどがあります。

③コミュニケーション・セキュリティー型ロボット

コミュニケーション型ロボットは人間とコミュニケーションをとることが出来るロボットです。AIの進歩によってロボットの会話能力は飛躍的に向上しており、将来的には人間と同じような会話が可能になると考えられています。

ロボットとの会話は言語リハビリにつながり、人とのコミュニケーションに消極的になっている患者に対して無理なく会話を促すことが出来ます。コミュニケーションの方法には会話以外にも文字や動作、顔認証など様ざまな方法があり、障害により話すことが出来ない方とのコミュニケーションツールとしても活用できます。コミュニケーションロボットして最も有名なのはソフトバンク社のペッパーで、福祉施設の中には障害児や認知症の方の言語リハビリに活用している例もあります。

セキュリティーロボットは利用者の動きなどを監視し、異常がある場合に介護者に状況を通知するロボットです。単身高齢者や認知症高齢者の安否を確認するロボットとして期待されています。特に転倒や転落、徘徊などによる事故のリスクが高い認知症患者は目が離せず、介護者は精神的にも肉体的にも追い込まれます。ロボットによる見守りが強化されれば、介護者の負担は軽減されるようになるでしょう。

ロボットをリハビリに活用する利点

ロボットをリハビリに活用する利点には以下のようなものがあります。

①療法士の負担を軽減

療法士は多い場合には一日に20人以上の患者のリハビリを担当します。介助量が多い患者も多く腰痛などで悩んでいる療法士は多いです。ロボットがパワーをアシストしてくれれば療法士の肉体的な負担を軽減することが出来ます。

②時間に関係なくリハビリが行なえる

費用の問題から療法士が提供するリハビリには時間や期間の法的制限があります。ロボットを使用した自主練習を取り入れることでリハビリの時間を増やすことができ、効果の向上が期待出来ます。

③安全面の確保

療法士はリハビリを提供する際に転倒や転落、病状の悪化などがないようにリスク管理を行なっています。ロボットが安全面をサポートしてくれれば療法士はリスク管理が行ないやすくなり、積極的なリハビリの提供が可能になります。

④訓練と同時に評価が行なえる

ロボットを使えばリハビリを行いながらデータの集積を行なうことが可能であり、治療と評価を同時に行なえます。療法士も治療と評価を同時に行なっていますが、ロボットの場合には数値化が可能なため、客観的で正確な評価が行なえます。

⑤電気や振動などの刺激により複合的なリハビリが提供できる

ロボットを使えば麻痺した筋肉に電気刺激や振動刺激を与えながらリハビリが行なえるなど、複合的な治療が行なえるようになります。現在でも理学療法士が物理療法を併用しながら運動療法を提供することはありますが、ロボットを使うことによってよりスムーズな複合治療の提供が可能になります。

ロボットリハビリの効果は?

療法士は転倒や転落、病状の悪化などのリスクに配慮しながらリハビリを提供しています。そのため、安全面への配慮からリハビリの内容が制限されることは多いです。特に麻痺がある方への歩行練習では転倒させないことが一番重要になるため、個別の関節や筋肉などへの細かなアプローチはなかなか行なうことが出来ません。ロボットによる安全面のサポートがあれば提供できるリハビリの幅は広がり、運動の協調性や巧緻性にも配慮した質の高いリハビリの提供が可能になります。

経費削減の理由からリハビリには法的な日数制限が存在し、後遺症がある方への維持期のリハビリが十分に提供できないことが大きな社会問題となっています。そのため、ロボットを使ったリハビリを維持期のリハビリとして活用することができないかと期待されています。

ロボットリハビリでは正しい動きや体の使い方をロボットがサポートしてくれるため、一般的な自主練習よりも正しい動作が身につきやすいと言われています。ロボットを使うことには最先端のリハビリを行っているという感覚があり、患者のモチベーションのアップにつながるというメリットもあります。安全で小型なロボットが開発されれば自宅でリハビリを行なうことも可能となるでしょう。

ロボット×リハビリ分野 各企業の取り組み

リハビリロボットに関しては多くの日本企業が開発を行なっています。代表的な企業をいくつか紹介します。

①HAL(サイバーダイン)

HALは生体電位信号を読み取って動作する世界初めてのパワードスーツです。機能は年々進化しており、HAL3では脚部のみの稼動であったものが、HAL5では腕や脚、胴体の全ての稼動が可能となっています。装着時には本来の能力の5倍の重さを持ち上げられます。

HALは身体障害者や高齢者が装着することで自立支援やリハビリとして利用できる一方、療法士が装着することで療法士の身体的な負担を軽減することが出来ます。

2014年11月には「HAL 作業支援用(腰タイプ)」と「HAL 介護支援用(腰タイプ)」 が実用化され、「HAL医療用下肢タイプ」 は神経・筋疾患の難病治療に有効であるとして2016年9月に保険適用となりました。

②トヨタ

トヨタと言えば日本が世界に誇る大企業であり、自動車産業で培った高い技術力をもとに人々の生活をサポートするパーソナルアシストロボットの開発を行なっています。リハビリに関連するロボットには以下のようなものがあります。

Physical Rehabilitation Aid Robots リハビリテーション用パートナーロボット

リハビリにおける歩行練習とバランス練習が行えるロボットです。歩行練習ではワイヤーによって患者の体を支え、ロボットによるアシストによって麻痺がある下肢の振り出しがスムーズに行なえます。歩行状態をモニター確認しながら練習出来るため、正しい歩行動作が獲得できます。

バランス練習ではゲーム感覚で重心移動の練習やバランス保持練習が行なえます。患者の重心がゲーム内のキャラクターと連動しているため、スコアの向上を目指すことでバランス能力の向上が図れます。

歩行支援ロボット

装着タイプのロボットで脳卒中やポリオなどによる下肢麻痺がある方への歩行アシストを目的としています。平地歩行だけでなく、階段や立ち座り、車への乗り降りなど日常生活で必要な様々な動作へのアシストが可能です。足裏や大腿部などにつけられたセンサーにより、関節や筋肉がバランスよく働くようになっています。

移乗支援ロボット

ベッドからの移乗とトイレなどの目的地への移動を同時に支援してくれるロボットです。誰でも安全に操作できるユニバーサル操作設計になっており、要介護者を優しく包み込む保持具によって介護者の負担と不安を軽減してくれます。移動時にはパワーアシスト機能が働き、楽に移動介助が行なえます。

③安川電機

安川電機は生産機械や産業用ロボットの会社として有名で、1990年代という早期からリハビリロボットの開発に着手していた会社です。一時は採算が取れない事業として中断されたものの、時代が変わったことで再び注目を集めるようになり、将来が期待できる新規事業としてリハビリロボットの開発に再び力を入れています。代表的なリハビリロボットには次のようなものがあります。

上肢リハビリ装置「CoCoroe AR2」 と下肢用リハビリ装置「CoCoroe LR2」

上肢と下肢の関節可動域訓練が行なえるロボットです。下肢用リハビリ装置「CoCoroe LR2」 はベッドに寝たままの状態で使用でき、足関節や膝関節、股関節の可動域訓練が行なえます。足関節のみの運動や下肢の曲げ伸ばし、SLR(下肢伸展挙上運動)など複数の運動方法が可能で、関節拘縮を予防したり効果的な可動域の維持・拡大が行なえます。速度や角度の調整はもちろん、効果を出したい角度で一定時間保持する機能も付いており、ストレッチ効果による可動域改善も行なえます。

上肢リハビリ装置「CoCoroe AR2」は2017年10月に発売された製品で、座った状態で麻痺した上肢の運動を行なうことが出来ます。タッチパネルで細かな設定や操作が可能であり、曲げ伸ばしなどの簡単な動作から、回旋動作などが加わった複雑な動作までの練習が行なえます。モニターによる視覚刺激、音による聴覚刺激、筋肉や感覚を刺激する振動刺激、電気刺激を同時に与えることで高いリハビリ効果が期待できます。

ロボット足首アシスト装置「CoCoroe AAD」

2017年12月に発売された歩行時の足関節の動きをサポートするロボットです。脳卒中による片麻痺では歩行の際に足関節の動きを制限する短下肢装具が使用されます。CoCoroe AADはロボット機能が付いた短下肢装具であり、ロボットが足関節の角度を制御することで麻痺がある方の歩行をアシストしてくれます。

まとめ:ロボットリハビリで理学療法士の仕事はどうなるのか

リハビリの分野にロボットが導入されると、療法士の身体的な負担を軽減できる、安全なリハビリの提供が出来る、今までよりも質の高い効果的なリハビリが提供できるなど様々なメリットが期待できます。しかし、ロボットに多くの機能が搭載されるほど、療法士にはそれを使いこなすための専門的な知識や技術が求められることとなります。ロボットを使った質の高いリハビリを提供する為には療法士の自己研鑽は欠かせません。

将来的にロボットやAIが普及することで一部の仕事はなくなるといわれていますが、療法士の仕事がなくなることはまずありません。その理由は同じ疾患でも患者によって必要とされるリハビリの内容には違いがあり、ロボットが導入されたとしてもそれを操作する専門家として必ず必要となるからです。ロボットの導入を懸念するのではなく、ロボットと協力することで今までよりも質の高いリハビリが提供できるよう努力していくことが重要です。

また、費用の面からロボットが全ての医療機関や介護施設に普及することは難しく、ロボットの有無や導入されているロボットの種類によって職場での働き方は変わってきます。療法士には職場に応じた臨機応変な働き方が求められるようになるでしょう。

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この記事を書いた現役の理学療法士は・・・

理学療法士 7年目(33歳・男)

大学卒業後、一般企業に就職し社会人を経験。その後理学療法士を目指して4年制のリハビリ専門学校へ入学。病院・介護老人保健施設・デイケアで働く経験を持つ現役の理学療法士。

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