- 記事の執筆者:久留米リハビリテーション学院 教務部長 大坪健一
- 記事の監修者:医療法人八女発心会 姫野病院 整形外科医 姫野信吉
リハビリの現場で活躍する理学療法士や作業療法士と似ている職種に、柔道整復師があります。理学療法士と柔道整復師はどのような違いがあるのでしょうか。
理学療法士と柔道整復師は似ているけど違う!?
理学療法士と柔道整復師。実際に患者様と接して、足の怪我などを「施術・治療」するということでは似た仕事をすることがあります。例えば、「運動療法」「物理療法」といったアプローチで患者様の怪我の治療や機能回復を図るという点では共通点も多くあります。
理学療法士は、医師の指示の下、医学的アプローチから患者様の怪我や病気によって衰えた身体機能の回復を図りリハビリを通して、座る・立つなどの基本動作や運動能力の回復など、身体の機能回復をサポートします。
柔道整復師は、法律上は、「打ち身」「捻挫(ねんざ)」「脱臼」「骨折」などの応急処置を行う職業で、医師の診断は不要で自ら治療に関わることができる反面、責任を伴う診断はできないことになっています。
つまり、柔道整復師は、自ら患者さんの診断はできるものの、あくまで応急処置を行うという役割を担い、打ち身や捻挫など限られた範囲に対処する職業ということです。
一方で、理学療法士は、施術による治療も行いますが、怪我だけでなく病気によって衰えてしまった身体機能のリハビリを行うことで、機能回復を支援し、自立した日常生活が送れるようサポートするという、より広範囲な役割を担う職業というイメージになります。
柔道整復師=整骨院で活躍というイメージ
柔道整復師は、独立して開業することができる「開業権」を持つことができますので、国家資格取得を取得した柔道整復師が「整骨院」を開業するケースが増えています。そのため、最近では、よく街中で「整骨院」を見かけるようになりました。
なかには、介護施設やリハビリテーション施設で運動機能回復の支援を行ったり、スポーツの現場でスポーツトレーナーとして活躍する柔道整復師も増えているようですが、資格取得後の進路としては、接骨院・整骨院が主になっています。同時に、私たちが身近に見かける「整骨院」は、柔道整復師が独立・開業して運営を行っていることがほとんどですから、柔道整復師=整骨院(接骨院)で活躍 というイメージが強いのかもしれません。
理学療法士は主に病院で活躍している
一方で理学療法士は、医師との連携や他職種との「チーム医療」で患者様のサポートを行うこともあるため、主に病院で活躍しています。総合病院の「整形外科」、整形外科に強い医院(クリニック)、最近では、病院で「リハビリテーション科」という部門に所属し、患者様のリハビリを行い、二人三脚で患者様が一日でも早く自立して元の日常生活に戻れるようサポートしています。
医師との連携が必要な職種であるため、理学療法士は病院をはじめとする医療機関やリハビリを目的とした施設(介護老人保健施設など)で活躍している方が多いようですが、プロのスポーツチームなどスポーツリハビリの分野で活躍する理学療法士も世界中にたくさんいます。
理学療法士と柔道整復師の違い(比較表)
ここまでで理学療法士と柔道整復師の共通点や違いなどをご紹介しましたが、改めて比較表にて、違いを整理してみましょう。
柔道整復師 | 理学療法士 | |
---|---|---|
主な勤務先 | 整骨院 | 病院 |
主な役割 | 応急処置が中心 | 施術・治療とリハビリ |
資格の違い | 独立開業ができる | 独立・開業権はない |
資格の起源 | 柔道選手の怪我の応急措置をするところから始まり、「ほねつぎ」と言われていた | アメリカ発祥で退役軍人の社会復帰などから発展していった |
対象疾患 | 捻挫、打撲、骨折、脱臼などの限られた範囲 | 脳卒中、外傷性脳傷、脊髄損傷、心臓疾患、呼吸器疾患など多岐に渡る幅広い範囲 |
責任範囲 | 限られた範囲内であれば、診断施術を行うことができる | 業務の開始に医師の指示が必要であり、病院内で知識や技術を活用して患者様の機能回復・リハビリ活動をサポートする |
収入 | 顧客獲得や経営力があれば豊かな収入になることもあるが、倒産というリスクもある | 初任給は大卒初任給の平均を上回り、景気に左右されず安定した給与が得られる |
柔道整復師と理学療法士それぞれの働き方や長所・違い
柔道整復師は、独立・開業できるため、自ら整骨院を開き、経営者(社長)となることができます。しかし、整骨院の数は年々増加しており、コンビニの数より多くなっています。そのため、患者様という顧客を獲得するための競争が起きており、安定した整骨院経営をしていくのは簡単ではありません。
また、整骨院の経営者という立場になるため、従業員の採用や経理、総務、雑用など、経営に必要なことをトータルで行わなくてはならないため、純粋に患者様の治療行為などに集中できなくなってしまう可能性があります。
一方で理学療法士は、医師の指示の下に機能訓練やリハビリを行いますので、職場が病院(医療法人)など、経営が安定している法人で勤務することができ、開業した場合と異なり自らの給料や経営の心配をする必要はあまりありません。理学療法士という資格と勤務経験・技術があれば、病院という職場を転職という形で数年単位で職場を変えることも可能です。
また、施術(治療)やリハビリという患者様と常に向き合える仕事に専念できるため、自らの技術で、患者様と接する仕事を長く、安定して続けていきたいという人には向いている職業と言えるのではないでしょうか。
ですが近年は、理学療法士として働きながら将来の開業を目指して、夜間の柔道整復師学校で学び、病院での安定的な収入を確保しながら、開業権の獲得のために柔道整復師とW(ダブル)資格を取る人も出てきていますので、安定した働き方と独立・開業という2つの道を目指すことも可能になっていますので、自身の志向や価値観、どのような働き方をしたいかという人生設計も考慮して、選択すると良いのかもしれません。