介護福祉士と作業療法士の国家資格をダブルで取得すると最強である理由
今、介護や医療・リハビリの現場では、介護のこともリハビリのことも分かる人材が求められています。
そのため、介護のプロである「介護福祉士」とリハビリのプロである「作業療法士」の国家資格をダブルで取得(ダブルライセンス)していると、現場では「最強」となります。
今回は、その理由や両方ダブルで国家資格を取得することのメリット、また介護福祉士と作業療法士の共通点について、高校で介護を学び、卒業後に作業療法士になった現役の教員が、高校生へ向けて分かりやすく解説をいたします。
この記事を書いた作業療法士の先生
津留嵜 衣里子先生(作業療法学科 担当)
大分県の昭和学園高等学校(福祉科)を卒業後、久留米リハビリテーション学院へ進学し、作業療法士として就職。介護の知識を生かして活躍後、作業療法士を育成する教員として母校へ戻ってきました。
1. 介護福祉士と作業療法士を両方取得するという道
介護福祉士と作業療法士のダブル国家資格を取得するためには、それぞれ国家試験の受験資格を得られる学校に通う必要があります。順序としては、「福祉系」の高校や専門学校に通って介護福祉士の資格を取得し、その後に「リハビリ系」の専門学校や大学に通って作業療法士の資格を取得するケースが一般的です。
1-1.福祉系の高校で介護福祉士を取得して作業療法士を目指す
福祉系の高校を卒業した後の選択肢には大きく分けて二つあります。
ひとつは介護福祉士として働く道、もうひとつは専門学校や大学などの上級学校に通い、医療職である看護師や理学療法士・作業療法士、もしくは福祉職の保育士などを目指すという道です。
今回はその複数ある選択肢の中から作業療法士という職業についてご紹介いたします。
この職業は、介護福祉士になるために学んできたことを活かしながら、リハビリについても学ぶことのできる道です。
介護福祉士と作業療法士の視点や仕事内容は共通点があり、ダブル国家資格を取得することで広い視野で対象者を捉えることができるようになります。
そのため担える役割の幅も広がり、医療や介護の現場で活躍することができます。
2.介護福祉士と作業療法士それぞれの国家資格について
介護福祉士と作業療法士は現場でどのような役割を担っているのでしょうか。
介護福祉士は、身体や精神上の障害があり、日常生活を送るうえで支障のある方に対してその方の状態に応じた日常生活の支援を専門的な知識と技術を持って行います。ただ単にできないことをサポートするだけではなく、対象者の生活の質を高めるために、できることを活かす方法を追求して支援を行います。
一方、作業療法士は、身体や精神上の障害により、日常生活を送るうえで支障のある方に対し、作業や活動を通してその人らしい生活の実現を目指した治療を専門的な知識と技術を持って行います。日常生活動作を獲得するために機能回復も図りますが、今できていることを活かして生活できるように動作訓練や動作指導、環境整備も行います。また、対象者の豊かな生活を送るために必要な、社会性の獲得も支援します。
3.介護福祉士と作業療法士の関係
介護福祉士と作業療法士の共通点と違いを通して、両者の関係性を考えていきましょう。
3-1.介護福祉士と作業療法士の共通点
介護福祉士と作業療法士の共通点は、両者とも対象者の日常生活をより良くするためのアプローチを行うことです。
対象者がより良い生活を送れるように、対象者の「できない部分」ではなく「できる部分」である残存機能に着目してアプローチを行います。
3-2.介護福祉士と作業療法士の違い
介護福祉士と作業療法士の違いは、介護福祉士は対象者に寄り添って「支援」をしていく職種であるのに対し、作業療法士は対象者に寄り添って「治療」をしていく職種であることです。
作業療法士も「支援」という言葉を使いますが、介護福祉士が生活の介助や支援を「介護的」に関わっていくのに対し、作業療法士は機能回復や日常生活・社会生活の再獲得を促すリハビリテーション治療などの「医療的な支援」を行います。
3-3.介護福祉士と作業療法士の関係性とは
介護福祉士は介護職、作業療法士は医療職と分けることができ、一見全く異なる位置づけに思える二つの職種ですが、実は切っても切り離せない関係があるのです。
作業療法士は、対象者の残存機能を活かし、日常生活をより豊かに送ることができるように、機能回復や動作訓練、環境整備などを通して治療的に関わっていきます。
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介護福祉士は、リハビリテーションを通してできるようになった動作が日常生活で定着するように実際の生活を通して支援していきます。
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対象者が日常生活でできることが増えていくと、作業療法士はさらに充実した社会生活を目指して次の目標を定め、その目標を達成するためのリハビリテーションを実施します。
こうして、作業療法士は、「対象者がより良い生活を送るための機能や動作、活動の獲得を目指してリハビリテーション治療を展開」し、⇔介護福祉士が、「対象者がリハビリテーションによって獲得した機能や動作、活動を実際の生活場面で活かす介助や支援を行う」という「治療」と「支援」の連続した関わりで、対象者の豊かな日常生活をつくっていきます。
4.介護福祉士の知識を持って作業療法士を目指すメリット
介護福祉士の知識を持って作業療法士を目指すメリットは、実際の生活場面で必要な介護の知識や技術を持ったうえでの「支援」も、対象者への「治療的な関わり」も持つことができるということです。
作業療法士は治療を行う際に、実際の生活場面に関わるため、対象者の日常生活を支援するプロである介護福祉士の視点を持っておくことは「作業療法の治療場面」から「実際の生活場面」への連携をスムーズにしてくれます。
現場では医療・介護の連携が非常に重要となるため、両方の立場にたって考えられる視点を持っていることは医療と介護のパイプをつなぎ、対象者を支える大切な役割を担うのです。
5.介護福祉士と作業療法士を両方取得すると現場では最強である理由
介護福祉士と作業療法士のダブル資格を持って働く作業療法士は、作業療法士として働きだしてからも介護福祉士の知識が役に立つと話しています。
「介護福祉士の知識を持っていてよかったこと」「現場で活かせること」について現在、介護福祉士国家資格取得し、作業療法士として働いている方のインタビュー内容をみてみましょう。
5-1.介護福祉士の知識を持っていてよかったことは?
「作業療法士はトイレ動作や朝食後の生活など、患者さんの日常生活に着目します。
介護福祉士の介護技術を持って患者さんのできないことをすべて介助してしまうこともできますが、全部手伝ってしまったら患者さんのためになりません。自分でできることはしてもらうような関わり方をしています。
患者さんが『自分でできる』『家に戻れる』と在宅復帰に向けてのモチベーションを高められるように、作業療法士として患者さんに自信を持ってもらえるような関わり方も大切です。
介護の知識と技術はリハビリテーションを行っていくうえでも必要で、無駄にはなりません。」
5-2.介護福祉士の資格が臨床現場でどのように活かされる?
「生活の援助は介護福祉士でも行えますが、作業療法士として治療的な視点で患者さんの生活をみるためには、その動作がどのような筋肉によって行われているのか。
どのように筋肉が働いて行われるのかなど、筋肉の起始や停止などの専門的な知識も必要です。
広く生活全般を捉える介護福祉士の知識・技術と、生活を専門的に深く捉える作業療法士の知識・技術の両方を持って生活場面に入っていくことができます。」
6.介護福祉士を目指している高校生へ
介護福祉士や作業療法士が働く現場は、地域社会という大きな枠の中で医療と介護の連携、さまざまな専門的な視点を持った他職種の連携が重要な意味を持ちます。
対象者の日常生活をみるという点において、介護職の主役である介護福祉士の視点、医療職の主役である作業療法士の視点の両側面からみることができるのは、地域社会で対象者の生活を支えていく際の強みとなります。
今後はますます、地域社会全体の連携が求められる時代です。だからこそ、医療と介護をつなぐ介護福祉士+作業療法士のダブル資格の強みが活かされるでしょう。
6-1.介護福祉士を目指している高校生へのメッセージ
「今、介護福祉士を目指している皆さんは、高校で勉強にしっかりと取り組み、介護福祉士を取得するために必要な学力をつけてください。皆さんが介護福祉士の国家資格取得のために日々頑張っていることは作業療法士になるための基礎となります。
実際に現場に入って『現場で何をすべきか』『どのように患者さんと関わればよいか』という疑問を抱いたときにも、介護福祉士になるために身につけてきた専門的な知識や考え方が答えのヒントとなってくれるはずです。
どうかひとつひとつの授業、先生の言葉を丁寧に吸収し、未来の介護福祉士、作業療法士を目指して学びを続けてほしいと思います。」
この記事を書いた作業療法士の先生
津留嵜 衣里子先生(作業療法学科 担当)
大分県の昭和学園高等学校(福祉科)を卒業後、久留米リハビリテーション学院へ進学し、作業療法士として就職。介護の知識を生かして活躍後、作業療法士を育成する教員として母校へ戻ってきました。