理学療法士による患者さんとのリハビリエピソード

私は2次救急の急性期病院で理学療法士として勤務していました。様々な疾患の患者様を担当してきましたが、その中でも患者様とご家族の熱い思いに心を打たれたケースをご紹介したいと思います。

 

70代女性との出会い

その患者様(以後Aさん)と出会った場所は、他の患者様と変わらず一般の病室でした。

Aさんはもともと持病の腎臓病のため、当院で人工透析に通っていました。それまで大きなけがをしたことはなかったため、お一人で杖もつかずしっかり歩けていましたし、旦那さんと二人暮らしの自宅では家事もこなしていました。

しかし病院に向かう際に段差につまづき転倒され、大腿骨の骨折という大けがを負ってしまいました。そして手術とリハビリのため、当院に入院されることになったのです。

ベッドで横になるAさんは、会話中もぼーっと他人事のような話し方をされていて、手術やリハビリの説明を淡々と受けていました。

手術後に訪れた試練

腎臓病もあり、手術のリスクは多少高くなりましたが骨折自体の手術は無事成功しました。しかし全身麻酔が切れてもAさんは日中眠っていることが多く、リハビリもままならない状態です。通常は手術直後から徐々にベッドを起こしたり、脚を動かす練習を始めるのですが、彼女は呼びかけても反応が薄いため、なかなかリハビリが進みませんでした。

手術から2週間ほどしても反応は薄いままです。ご家族がいるときはまれに起きていることもありましたが、前のようなコミュニケーションは困難な状況でした。

意識がぼーっとしてしまう原因は、腎臓病の治療が上手くいかず全身状態が安定していなかったためだったのですが、内科・整形外科の医師、看護師と相談しながらできる範囲のリハビリを行いました。

意識は戻ったけれど・・・

Aさんの意識が戻ってきたのは手術から3週間ほど経ってからでした。長い間寝たきりだったため、手術した脚だけでなく怪我していない脚も筋力は大きく落ちています。最初は起き上がる、座ることもままならない状況でした。

痛みがあるうえに、大きく体力を使うリハビリは過酷だったと思います。最初Aさんは、想像以上に身体が不自由なことに愕然とされていました。私はなるべくAさんのモチベーションを上げようと、つとめて明るく接していました。ご家族からAさんの趣味を聞いたりして、傷のことやこの先不安なことを忘れる時間ができるように、楽しい話題の提供を心掛けていました。

また旦那さんや息子さんにもリハビリに付き添ってもらい、ご家族との関わりも大事にしました。それは、それまでの会話からAさんが誰よりも頼りにしているのが旦那さんだと感じていたからです。旦那さんの励ましや見守りによって、Aさんは3カ月と長い期間当院でリハビリに励まれました。

最初は暗い表情だったAさんも次第に明るさを取り戻し、冗談を言うまでの気持ちの変化もみられるようになりました。

手術直後は起きることも座ることも一人でできなかったAさんは、ついに杖をついてご家族の見守りのもと歩けるまでに回復されました。

自宅復帰を目指して

ご自宅に退院したいというのが、Aさんと旦那さんの当初からの希望でした。手術から3カ月、Aさんの状態は、家の中に手すりなどを設置すれば、旦那さんの介護のもと生活できるレベルまで回復されていました。

しかし、住んでいる自宅が賃貸マンションだったため手すりの設置が認められず、医師からは「一旦介護施設に入ってはどうでしょうか」と提案されたこともありました。

しかし旦那さんは、Aさんと一緒に生活することを諦めませんでした。病院の近くに一戸建てを購入し、Aさんを迎える準備をしたいと相談してきてくれたのです。

長年連れ添った妻と一緒に暮らしたい、その強い想いとAさんがリハビリを頑張る姿に強く心を打たれました。

理学療法士としてできることはなにか

患者様が退院してからは、急性期病院の理学療法士が直接その患者様に関わる機会はほとんどありません。

Aさんと旦那さんが新しいお家で安全に、少しでも快適に暮らせるように私ができることを考えました。担当のケアマネージャーと共に退院後の介護サービスの導入を調整したり、実際にお家へ訪問して手すり・家具の位置や介護用品の導入について提案させていただきました。

そして無事にAさんは新しいお家へ退院され、いまも旦那さんと2人で仲良く暮らしていらっしゃいます。時折Aさんからお電話をいただいた時には、「今は杖なしで家の中なら歩けるよ」「梅酒をつけてみたの、今度飲んでみる?」などうれしい報告を聞かせていただいています。

Aさんから学んだこと

病院は患者様にとって、決してプラスイメージな場所ではありません。「思い出したくもない」という方も多いでしょう。

それでも、Aさんは何度も感謝の言葉を伝えてくださり、退院から3年ほど経ったいまも近況を嬉しそうに教えてくれます。

理学療法士として私ができたことは、ほんのわずかなお手伝いだったかもしれません。技術面ではベテランのセラピストには遠く及ばなかったかもしれません。

それでも、患者様が不安なときに寄り添って応援できたことは確かだったと実感できました。

いまは休職中の身ですが、今後も患者様やご家族の気持ちに寄り添える、そんなセラピストでありたいと思っています。

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